ものづくりプレス
2025-12-09
合成ゴムはどこまで「カーボンニュートラル」になれるのか──部品設計者が今から持つべきLCA視点
タイヤメーカーや自動車メーカーが「2050年カーボンニュートラル」「サステナブル素材100%」を掲げる中で、合成ゴムも例外ではなくなってきました。
実際に、欧州のタイヤメーカーは、バイオ由来・リサイクル由来の合成ゴムやカーボンブラックを採用し、2030年までに40%以上を再生可能・リサイクル材料にする目標を掲げています。
また、海外の研究では、バイオ由来ブタジエンから製造したSBRは、従来の化石由来SBRと比較して、1kgあたりのCO₂排出量を約40%程度削減できる可能性があるというLCA結果も報告されています。
こうした動きは、最終製品だけでなく、その中に組み込まれる「ゴム部品単体」にも、以下の数値を求めてくる方向に進んでいることを意味します。
- ライフサイクル全体でどれだけCO₂を出すのか(カーボンフットプリント)
- どれだけリサイクル・再生可能資源を使っているか
- 合成ゴムの「カーボンニュートラル」動向は何が起きているのか
- LCA(ライフサイクルアセスメント)の基本と、ゴム部品設計で見るべきポイント
- 材料選定・設計・調達の現場で、今からできること
これらを、設計・調達担当者の実務視点で整理します。
目次
1. 合成ゴムのカーボンニュートラルは何で進むのか
「カーボンニュートラルな合成ゴム」と聞くと、「全部バイオマス由来になるの?」とイメージしがちですが、実際のアプローチはもっと多層的です。
1-1. バイオ由来ブタジエン・スチレンへのシフト
合成ゴムの主原料であるブタジエンやスチレンを、石油ではなくバイオマス由来に切り替える動きが加速しています。
- ブタジエンをバイオエタノールなどから製造する「バイオブタジエン」
- バイオ由来ナフサをクラッキングして得られるバイオスチレン
欧州の合成ゴムメーカーとタイヤメーカーは、バイオブタジエンを使った高性能合成ゴム(S-SBRやBR)を共同開発するパートナーシップを結んでおり、量産に向けた検証が進んでいます。
1-2. マスバランス方式による「バイオ・リサイクル原料の割り当て」
原料の一部をバイオ/バイオサーキュラー由来に置き換え、その環境価値を製品に「割り当てる」マスバランス方式も広がっています。
ある大手タイヤメーカーは、以下の原料をマスバランスでタイヤに適用し、実質的に再生可能・循環由来材料の比率を高める取り組みを進めています。
- バイオ/バイオサーキュラー由来ブタジエン
- バイオサーキュラー由来オイルから作るカーボンブラック
1-3. リサイクルゴム・リサイクルカーボンブラックの活用
欧州のプロジェクトでは、使用済みタイヤやゴム製品から高品質なリサイクルゴム粉・リサイクルカーボンブラックを製造し、新しいタイヤや工業用ゴム製品に高比率で再利用できる技術が実証されています。
- 粉砕/脱硫技術の高度化
- リサイクル材を高配合しても性能を確保できるコンパウンド設計
これらによって、「バージン合成ゴム100%」から徐々に脱却する流れは、今後加速していくと見られます。
2. なぜ部品メーカーに「LCA視点」が求められるのか
2-1. Scope3の大半は「サプライチェーン由来」だから
多くの製造業では、事業全体のCO₂排出量のうち、サプライチェーン由来のScope3排出が8〜9割を占めると言われています。
つまり、自社工場の省エネだけではカーボンニュートラルは達成できず、「調達している原材料・部品のCO₂をどう減らすか」が不可欠になります。
自動車メーカーはすでに、「サプライヤーに対してカーボンフットプリントの開示を求める」「一定年度以降はカーボンニュートラル素材のみ採用などの条件を提示する」といった動きを強めています。
2-2. EU PEF・JAMAガイドラインなど、「LCAの物差し」が整備されつつある
EUでは、製品の環境影響評価に「Product Environmental Footprint(PEF)」というLCAベースの共通指針を推奨しており、自動車分野でも同様の枠組みが整備されつつあります。
日本の自動車工業会(JAMA)も、車両のカーボンフットプリント算定ガイドラインを公表し、リサイクル材利用の扱いなどを明確化しています。
この流れは、「ゴム部品メーカーも、いずれLCAデータを添えて提案するのが当たり前になる」方向に向かっていると考えるべきです。
3. LCAの基本をゴム部品設計にどう落とし込むか
ここからは、LCAの考え方をゴム部品(合成ゴム部品)の設計に落とし込むための実務的な視点を整理します。
3-1. まずは「どこからどこまで」を決める(システム境界)
LCAでは、「原料採掘〜樹脂・ゴム製造〜部品成形まで(cradle to gate)」や「使用段階も含める(cradle to grave)」など、「どこまでを評価対象とするか」を決める必要があります。
ゴム部品の場合、以下の要素をどこまで含めるかで最適な設計判断が変わってきます。
- 製造段階(材料生産+コンパウンド+成形)のCO₂
- 使用中の燃費・効率への影響(軽量化など)
- 廃棄・リサイクル時のCO₂
3-2. 評価軸は「kg-CO₂/kgゴム」だけではない
合成ゴムのLCAでは、もっとも注目されるのは温室効果ガス排出量(kg-CO₂e)ですが、それだけでは不十分です。
- 化石資源消費(MJ)
- 水消費量
- 土地利用(バイオマス由来の場合)
など、バイオ由来ゴムと化石由来ゴムを比較するときには、別の環境負荷が増えていないかも見る必要があります。
3-3. 「部品単体」だけでなく、「システム全体への影響」を見る
ゴム部品は、単体のCO₂よりも「システム全体に与える影響」で評価すべき場面が多くあります。
- 減肉設計で軽量化 → 装置全体のエネルギー効率向上
- 低摩擦シール → ポンプ・コンプレッサの消費電力低減
- 長寿命化 → 交換頻度とスペアパーツ物流の削減
つまり、部品レベルで多少CO₂が増えても、システム全体のCO₂が下がるなら、LCA視点では「良い設計」と言えます。
4. 合成ゴム部品の設計・材料選定で押さえるべき5つのポイント
ここからは、設計・調達担当者にとって実務上のチェックリストになるように、ポイントを絞って整理します。
4-1. 材料グレード:バージン/バイオ/リサイクルの組み合わせ
「化石由来合成ゴム100%」「バイオ由来モノマーを一部置き換えた合成ゴム」「リサイクルゴム粉・リサイクルカーボンブラックを一定比率配合したコンパウンド」など、性能・コスト・LCAのバランスを見ながら、「どの用途なら、どこまでサステナブル素材を入れられるか」を整理しておくと、顧客からの要望にも応えやすくなります。
4-2. 長寿命化とLCAのトレードオフ
「高性能ゴム(HNBR、FKM、FFKM 等)で寿命を伸ばす」か「標準グレードで交換頻度を上げる」か。
どちらがLCA的に有利になるかは、装置停止の影響や交換作業のCO₂によって変わります。「高耐久×高CO₂」か「低耐久×低CO₂」かではなく、「1年あたりのトータルCO₂」で評価することが重要です。
4-3. 軽量化・小型化の余地
部品重量が大きい場合、断面の最適化や、剛性の観点での見直し、材料の高強度化による減肉などによって軽量化ができれば、輸送・使用段階も含めてCO₂を削減できることがあります。
4-4. リサイクルしやすい設計・材質の選び方
欧州では、車両・バッテリーなどで「リサイクル前提の設計(デザイン・フォー・リサイクル)」が求められ始めており、ゴム部品も例外ではありません。
- 異種材料の複雑な一体成形は避ける(分別しにくい)
- 金属インサートとゴムの分離性を考慮する
- ハロゲン系添加剤など、リサイクル性を阻害する要素を把握する
4-5. データを取りにいく姿勢:LCA情報を「聞く」のも設計者の仕事
材料メーカー・コンパウンドメーカーの中には、すでに自社製品のLCAデータやカーボンフットプリントを整備し始めているところもあります。
「kg-CO₂/kg 材料」「再生可能・リサイクル原料比率」「第三者認証の有無」といった情報を、見積段階から積極的に問い合わせることで、設計・調達側も「数字で比較する」ための土台を作れます。
5. 合成ゴムのカーボンニュートラルを「提案」に変えるために
最後に、合成ゴムのカーボンニュートラル動向を、部品メーカー側の「提案力」にどう変えていくかをまとめます。
- 「価格×性能」だけでなく「CO₂」を第三の軸にする
カーボンフットプリント(LCA)を提案軸として提示できるかが、サプライヤー選定の大きな要因になります。 - 「LCAシミュレーションまで一緒に考えるパートナー」になる
複数材料・複数シナリオのLCA簡易比較や、長寿命化/軽量化/リサイクル性向上などの案をセットで提案しましょう。 - まずは「代表品1つ」からLCAをやってみる
代表的な合成ゴム部品を1品目選び、材料・成形・輸送の条件を整理して簡易LCAを実施してみることから始めましょう。
LCA視点での材料選定・調達ミックスをご検討の方へ
「合成ゴムのカーボンニュートラル」や「ゴム部品のLCA視点を取り入れた設計」を具体的な案件に落とし込みたい場合は、既存部品の仕様や候補材料、想定される使用条件などの情報をご用意の上、ご相談ください。
富士ゴム化成では、「LCAを意識した材料提案・調達ミックス」の検討をサポートいたします。
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