ものづくりプレス
2024-03-22
エラストマーとは?最新の技術動向もご紹介
エラストマーは、弾性があり、柔軟性に富みながらも強度を持つ特殊なポリマー材料です。
この記事では、エラストマーの基本的な特性から最新の技術動向までを紹介します。
■エラストマーの特性
エラストマーは、高分子の一種であり、他の材料と比較して特有の特性を持っています。
・粘弾性を持つ高分子
エラストマーは、粘性と弾性の両方の性質を持つ粘弾性材料です。これは、エラストマーの分子間相互作用が比較的小さいため、エラストマーは他の材料と比較して、小さいヤング率(剛性の指標)と大きな破壊ひずみ(変形の許容量)を持っています。
・弾性のある高分子
"エラストマー"という用語は、「弾力のある高分子」(elastic polymer)を意味し、ゴムとほぼ同義で使われます。ただし、加硫されたエラストマーについては一般的にゴムと呼ばれます。
構成要素としてのモノマー: エラストマーの高分子は、主に炭素、水素、酸素、シリコンなどの元素から構成されています。
・非晶質性
エラストマーは、そのガラス転移温度より上の温度では非晶質の高分子です。このため、室温では柔軟性があり、比較的低いヤング率(約3MPa程度)を持ち、容易に変形します。
・主な用途
エラストマーは、封止材、接着剤、成形された柔軟な部品など、様々な用途に利用されています。具体的には、タイヤ、靴のソール、振動減衰部品などが挙げられます。
・分子構造と弾性の関係
エラストマーの分子構造は、「スパゲッティとミートボール」のような構造と比喩されます。これは、長い分子鎖がミートボール(架橋点)で結ばれており、応力が加わると分子鎖が再配置されることで弾性が発現します。
エラストマーは、500-700%程度の変形を繰り返すことができますが、架橋点がない材料では与えられた応力によって永久的な変形が起こります。
■エラストマーの用途
エラストマーは、その特性からさまざまな産業や用途で幅広く使用されています。以下に、エラストマーの主な用途や利用されている業界について詳しく説明します。
・自動車産業
自動車産業では、エラストマーがさまざまな部品やコンポーネントに利用されています。
例えば、タイヤやブレーキシステム、シールやゴム製のパーツ、サスペンションなどにエラストマーが使用されています。エラストマーの高い耐摩耗性や耐久性が、自動車の安全性や性能向上に貢献しています。
・建築・建材産業
建築業界では、エラストマーがシーリング材や防水材として使用されています。建物の外壁や屋根、窓などの接合部分やジョイント部分を密封し、防水性や気密性を確保するためにエラストマーが利用されています。
・医療機器産業
医療機器の製造においても、生体親和性の高いエラストマーが使用されています。人工関節や医療用具、シリコン製のカテーテルやチューブなどにエラストマーが利用され、柔軟性や耐久性が重視されています。
・家庭用品・消費財産業
家庭用品や消費財にもエラストマーが利用されています。例えば、キッチン用品や調理器具、おもちゃ、スポーツ用品などにエラストマーが使用されています。エラストマーの柔軟性や耐久性が、これらの製品の安全性や快適性に貢献しています。
・電子機器産業
電子機器の製造においても、エラストマーが利用されることがあります。例えば、スマートフォンやタブレット端末のケースや保護カバー、ボタン、シリコン製のキーパッドなどにエラストマーが使用されています。
・その他の産業
その他、化学工業や航空宇宙産業、エネルギー産業などでもエラストマーが幅広く利用されています。例えば、化学プラントのパイプラインやバルブのシール、航空機のシールやゴム製部品、電力設備の絶縁材などにエラストマーが使用されています。
これらの産業や用途において、エラストマーはその柔軟性や耐久性、耐候性などの特性を活かしてさまざまな役割を果たしています。
■最新の技術動向
最新のエラストマー技術動向は、持続可能性、高性能化、新しい材料の開発、および応用技術の進展などの側面に焦点を当てています。
以下に、それぞれの領域について詳しく説明します。
◇持続可能性への取り組み
持続可能性への取り組みにおいて、エラストマー製造業界ではさまざまな具体的な取り組みが行われています。以下に、その一部を紹介します。
・再生可能原料の使用
エラストマーの製造において、再生可能な原料の使用が増えています。例えば、植物由来のバイオマスから得られる原料やリサイクルプラスチックから製造されるポリマーなどが活用されています。
植物由来の原料を用いたバイオポリマーをエラストマーの製造に利用する例が増えています。これにより、化石燃料の使用量を削減し、環境負荷を軽減することが期待されています。
・バイオベースのポリマーの採用
エラストマーの製造において、バイオベースのポリマーが採用される例も増えています。これらのポリマーは、化石由来の原料に比べて二酸化炭素排出量が低いことが特長です。
バイオベースのポリマーは、エラストマーの製造において再生可能な資源を活用するだけでなく、従来のポリマーに比べて環境負荷を削減する効果が期待されています。
・リサイクル技術の改善
エラストマー製品のリサイクル技術の改善が進んでいます。従来、エラストマーはリサイクルが難しいとされてきましたが、新たなリサイクル技術の開発により、エラストマー製品のリサイクルが可能になってきています。
特に、化学的なリサイクル技術の開発が進展しており、エラストマー製品から原料を再生する方法が研究されています。これにより、エラストマー製品の廃棄物を最小限に抑え、循環型経済の実現に向けた取り組みが進んでいます。
・エネルギー効率の向上
エラストマーの製造プロセスにおいて、エネルギー効率の向上が図られています。例えば、製造工程の最適化や省エネ設備の導入などにより、製造プロセス全体のエネルギー消費量を削減する取り組みが行われています。
さらに、再生可能エネルギーの利用や排出ガスの削減など、製造プロセス全体の環境負荷を低減するための取り組みも進んでいます。
これらの取り組みにより、エラストマーの製造における環境負荷が低減し、持続可能性を高める努力が行われています。
◇高性能化
高性能化に向けたエラストマーの取り組みには、耐摩耗性、耐久性、耐候性、耐化学薬品性などの向上が含まれます。
また、ナノテクノロジーの応用も重要な要素となっています。以下に、これらの取り組みの具体的な事例を示します。
・耐摩耗性の向上
エラストマーの耐摩耗性を向上させるために、耐摩耗性に優れる添加剤の開発が進められています。例えば、シリカやカーボンブラックなどの微粒子を添加することで、エラストマーの耐摩耗性が向上することが報告されています。
また、エラストマーの分子構造を最適化し、摩擦や磨耗に対する耐性を高める研究も行われています。分子鎖の配向や架橋密度の調整などがその例です。
・耐久性の向上
エラストマーの耐久性向上には、新しい架橋剤の開発や改良が行われています。これにより、エラストマーの耐熱性や耐候性が向上し、長期間の使用に耐える製品が開発されています。
さらに、特殊な添加剤や補強材料の利用により、エラストマーの耐久性をさらに向上させる試みも行われています。例えば、耐UV添加剤や耐オゾン剤などが挙げられます。
・耐候性の向上
エラストマーの耐候性を向上させるために、耐候性ポリマーの開発や製造プロセスの改良が行われています。これにより、エラストマー製品が外部環境の影響によって劣化することが少なくなります。
また、特殊な表面処理やコーティング技術の導入により、エラストマー製品の耐候性をさらに向上させる試みも行われています。
・耐化学薬品性の向上
エラストマーの耐化学薬品性を向上させるために、新しいポリマー材料の開発や改良が行われています。特に、耐油性や耐溶剤性の向上に焦点が当てられています。
さらに、特殊な添加剤や表面処理技術の導入により、エラストマー製品が化学薬品に対して耐性を持つようになっています。
これらの取り組みにより、エラストマーの性能が向上し、より高性能な製品が開発されることが期待されています。
◇新しい材料の開発
・熱可塑性エラストマー(TPE)の開発
シリコンとポリウレタンを組み合わせたTPEの開発が進んでいます。この新しい材料は、従来の熱硬化性エラストマーに比べて加工性が高く、柔軟性に富んでいます。
TPEは、自動車産業や家庭用品、医療機器などさまざまな分野で利用されています。例えば、耐摩耗性が要求される自動車部品や、柔軟性と耐久性が必要な医療機器に適用されています。
・生体適合性や生分解性を持つエラストマーの開発
生体適合性を持つエラストマーとして、シリコンエラストマーが注目されています。シリコンエラストマーは、柔軟性と生体親和性に優れており、人工関節や医療用具などの医療機器に広く使用されています。
生分解性を持つエラストマーとして、ポリ乳酸(PLA)やポリカプロラクトン(PCL)を含むバイオポリマーが開発されています。これらの材料は、環境にやさしく、医療機器や持続可能なパッケージングなどの分野で利用されています。
・ナノテクノロジーを活用したエラストマーの開発
ナノテクノロジーの応用により、エラストマーの性能向上が図られています。例えば、ナノ粒子を添加することでエラストマーの強度や耐久性が向上し、新しい応用領域が開拓されています。
また、ナノ構造を制御することでエラストマーの特性を調整する研究も行われており、例えば耐候性や耐化学薬品性の向上が期待されています。
これらの新しい材料の開発により、エラストマーの性能や応用範囲が向上し、さまざまな産業や分野での利用が拡大されています。
◇応用技術の進展
・エラストマーの3Dプリント技術の発展
現在、3Dプリント技術を用いてエラストマー製品を製造するための多くの研究が進行中です。特に、液状のエラストマーを用いた光造形法やエクストルージョン法が注目されています。
例えば、柔軟な構造や複雑な形状を持つエラストマー製品が必要な医療機器やスポーツ用品などにおいて、3Dプリント技術を用いることでカスタマイズされた製品の製造や試作が可能になっています。
また、従来の製造方法では難しかった中空構造や内部構造のあるエラストマー製品の製造も、3Dプリント技術を用いることで容易になりました。
・エラストマーのスマート化技術の進展
エラストマーを利用したストレッチセンサーや圧力センサーの開発が進んでいます。これらのセンサーは、身体部位の動きや圧力の変化を検出するのに使用され、医療やスポーツ分野での応用が期待されています。
柔軟な電極材料としてのエラストマーの利用も研究されており、これは着用型電子デバイスやバイオセンサーの開発に役立ちます。例えば、エラストマーを用いた柔軟で皮膚に適合する電極を開発することで、医療モニタリングや健康管理の分野での利用が期待されています。
これらの技術の進展により、エラストマーの応用範囲がさらに拡大し、より高機能で応用性の高い製品の開発が可能になっています。
■まとめ
いかがでしょうか。エラストマーは、高い柔軟性と耐久性を持つ重要な高分子材料です。持続可能性への取り組みや技術の進歩により、さらなる性能向上や新たな応用が期待されています。
これにより、産業界や医療分野など様々な領域で革新的な製品が生み出される可能性が高まります。
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