ものづくりプレス
2025-12-23
「マイクロプラスチック規制の次の焦点」はタイヤだけか?シール・パッキンへの波及可能性
1. 「マイクロプラスチック=タイヤ」の次に何が来るのか?
ここ数年、「マイクロプラスチック」という言葉は
ストローやレジ袋よりも「タイヤ摩耗粉」とセットで語られることが増えました。
・タイヤ摩耗粉(TRWP)が、海や河川に流入する主要なマイクロプラスチック源であること
・欧州で、タイヤ摩耗粉を対象にした規制(Euro 7・専用規則など)が動き出していること
といった流れから、
「マイクロプラスチック規制は、まずタイヤから」
という構図ができつつあります。
一方で、タイヤと同じ「ゴム・樹脂製品」である
工業用のシール・パッキン・ガスケットは、本当に“蚊帳の外”のままでいられるのか?
という不安や疑問も、設計・調達の現場から聞こえてきます。
この記事では、
・世界のマイクロプラスチック規制の現状
・なぜ気密・止水部品であるシール・パッキンにも影響し得るのか
・設計・調達として、今からどこまで備えておくべきか
を、製造業の実務目線で整理します。
目次
2. まず押さえたい:現在の「マイクロプラスチック規制」の主戦場
2-1. EU REACH:意図的に添加されたマイクロプラスチックの規制
EU では、REACH 規則の制限として
「意図的に添加されたマイクロプラスチック」を段階的に禁止する決定がなされています。
対象をざっくり言うと、
・合成ポリマー微粒子(一定粒径以下の樹脂粒子)が
・製品に“性能を持たせる目的で”添加されている場合
であり、たとえば
・スクラブ入り化粧品
・洗剤・洗浄剤
・農業用途のコーティング
・スポーツ用人工芝のゴムチップ
などがターゲットになっています。
重要なのは、
この制限の対象は「微粒子として存在するポリマー」であり、
一体成形された“完成品(article)”は直接のスコープ外
という点です。
つまり、Oリングやガスケットといったシール・パッキンそのものは、現時点ではこの規制のど真ん中にはいません。
2-2. タイヤ摩耗粉:Euro 7・専用規則で明確にターゲットに
一方で、タイヤは“別ルート”で規制の本命になりつつあります。
・新排ガス規制「Euro 7」で、排気ガスだけでなく
「タイヤ摩耗粉・ブレーキ粉」など非排気由来粒子も規制対象に含める方向が明確化
・EU 規則や UNECE で、タイヤ摩耗の測定方法・試験条件の国際標準化が進行中
・研究・報道では「タイヤ摩耗粉が世界のマイクロプラスチック源の大きな割合を占める」との指摘が相次ぐ
といった状況で、タイヤは“悪役”として名指しされています。
2-3. では、シール・パッキンは関係ないのか?
現時点の法令文面だけを見ると、
・REACH のマイクロプラスチック制限 → シール・パッキンは「成形品」であり直接対象外
・タイヤ摩耗粉規制 → 車両用タイヤに限定される方向
なので、工業用シール・パッキンが即座に規制されるわけではありません。
しかし、
・「摩耗によって微細なゴム・樹脂粒子が発生する」という意味では、本質的に同じ構造
・PFAS 規制や LCA(ライフサイクルアセスメント)の流れと“束ねて”議論される可能性
を考えると、中長期的には無関係とは言い切れない領域です。
マイクロプラスチック規制そのものの概要や、既に決まっている EU 規則の内容を整理した基礎解説
『【マイクロプラスチック規制とは?世界と日本の最新動向をやさしく解説】』
もあわせてご覧ください。
シール・パッキンの話に入る前に、全体像を把握しておくのに役立ちます。
3. シール・パッキンはどうやってマイクロプラスチックを出し得るのか?
シール・パッキンは、タイヤのように路面と直接こすれ続ける部品ではありません。
それでも、以下のような経路でマイクロプラスチックに関わる可能性があります。
3-1. 動的シールの摩耗粉:油中・水中に混ざる微細粒子
・ポンプ軸のメカニカルシール/パッキン
・シリンダロッドシール
・回転軸用オイルシール
など、動的なシールでは、相手材との摩擦により少しずつシール材が摩耗します。
この摩耗粉は、
・作動油・グリース・水などの流体中に混ざる
・漏えい・交換・廃油処理のプロセスで環境側に流出し得る
という意味で、潜在的なマイクロプラスチック源になり得ます。
3-2. 劣化・破断シールのフレーク状破片
屋外・海洋・薬液環境などで長期使用されたシール・パッキンは、
・紫外線・オゾン・温度変動・薬品の影響でクラック・チョーキングが進む
・破断後、フレーク状のゴム片・樹脂片として剥がれ落ちる
といった形で環境中に残ります。
これらの破片も、時間とともに細かく砕け、マイクロプラスチックの一部になっていきます。
3-3. 「PFAS 規制」とセットで議論される可能性
シール・パッキンの世界では、
・FKM(フッ素ゴム)
・PTFE(フッ素樹脂)
・FFKM などの特殊フッ素エラストマー
といった PFAS 系材料が、耐薬品・耐熱用途で広く使われています。
EU の PFAS 規制案の影響評価では、航空宇宙・エネルギー・輸送などの過酷条件向けシール・Oリングが、規制対象となり得る用途として具体的に名指しされています。
PFAS 規制とマイクロプラスチック規制は別の枠組みですが、
「環境中に残留しやすいフッ素系ポリマー」
「微細な樹脂・ゴム粒子として広範囲に拡散するリスク」
という点で論点が重なっており、
将来的にシール・パッキンが“セットで議論される”可能性は十分にあります。
PFAS 規制とフッ素ゴム・フッ素樹脂シールの関係を整理した記事
『PFAS規制時代のフッ素系ゴム選定ガイド|用途要件からの置換・最適化の進め方』
では、「どんな用途から代替検討を始めるべきか」を具体的に解説しています。
マイクロプラスチックとPFASを“別々ではなく一緒に”考えるヒントとしてご覧ください。
4. 規制の波及シナリオ:シール・パッキンにどんな形で来そうか?
では、具体的にどのような形でシール・パッキンへ波及してくるのか。
あり得そうなシナリオをいくつか挙げます。
4-1. 「直接規制」ではなく、エコデザイン・調達基準から
REACH のマイクロプラスチック制限は、いまのところ“微粒子そのもの”に的を絞っていますが、
EU のその他の政策文書では、
・タイヤ摩耗粉
・ブレーキダスト
・プラスチックペレット損失
・塗料・コーティングの剥離
など、「使用時・流通時に微粒子を発生させる製品群」も広く検討対象に挙がっています。
シール・パッキンについても、
・エコデザイン規則(製品設計指令)
・公共調達のグリーン基準
・業界のガイドライン(水道・食品・医療機器など)
といった枠組みの中で、
「マイクロプラスチック排出を最小化する設計・材料選定」
がリクエストされる可能性があります。
4-2. LCA と環境ラベルを通じた“間接的な圧力”
欧州を中心に、製品の LCA(ライフサイクルアセスメント)と
環境ラベル(エコラベル・カーボンフットプリント表示など)の重要性が高まっています。
・どの材料を、どれだけ使っているか
・使用中・廃棄時にどの程度マイクロプラスチックが発生し得るか
といった情報を求められれば、
シール・パッキンも「ブラックボックス」ではいられません。
BtoB の調達仕様書・RFP に
・「PFAS の使用状況」
・「マイクロプラスチック排出への配慮」
といった項目が追加されるのは、時間の問題と見ておいた方が安全です。
4-3. 特定用途(海洋・飲料水・食品接触)からの“個別要求”
特に要注意なのは、
・海洋・船舶・オフショア設備向けシール
・上下水道・飲料水システムのシール(配管・バルブ・ポンプ)
・食品・医薬品の製造設備に使うシール
といった、「マイクロプラスチックの暴露リスクが直接的」な用途です。
これらの分野では、すでに
・NBR → EPDM/シリコーンへの切り替え
・特定可塑剤の不使用
・抽出物・溶出物(E&L)の管理
などが求められていますが、
ここに「マイクロプラスチック排出の抑制」が加わっても不思議ではありません。
5. 設計・調達の立場から、今できる“現実的な備え”
では、
「明確な規制もないうちから、どこまでやるべきか?」
という現場の疑問に対し、過剰でも放置でもない“現実的な備え”を整理します。
5-1. 自社シール・パッキンの使用実態を棚卸しする
まずは、
自社のシール・パッキンが
・どんな流体・環境に触れているか
・静止シールなのか、動的シールなのか
・廃棄・交換の頻度と方法はどうなっているか
を棚卸しし、マイクロプラスチックの観点からリスクが高そうな用途を洗い出すことが第一歩です。
特に、
・高速・高圧・高温の動的シール
・水系・海洋系・食品系に直接触れるシール
・フッ素系材料や特殊添加剤を使用しているシール
は、優先的に把握しておく価値があります。
5-2. 「長寿命化=マイクロプラスチック削減」という視点
マイクロプラスチックは、突き詰めれば「分解・摩耗・破断の結果」です。
であれば、シール・パッキンにおいて
・適切な材料選定
・適切な設計(面圧・クリアランス・表面粗さ)
・適切な保守・交換サイクル
によって寿命を伸ばし、
交換回数と廃棄物を減らすことは、そのままマイクロプラスチック削減の論理につながります。
「とりあえず安くて柔らかいゴム」で凌ぐより、
・摩耗しにくい材質
・摩擦・発熱を抑える設計
に投資することは、“環境配慮型のシール設計”として十分に説明がつきます。
5-3. PFAS フリー/低残留リスク材へのロードマップを持つ
フッ素ゴム・フッ素樹脂を一足飛びにやめることは、多くの産業で現実的ではありません。
しかし、PFAS 規制の議論を見る限り、シール・Oリングは明らかに重点対象のひとつです。
そこで、
・どの用途で PFAS 系シールが使われているか
・どこから PFAS フリー材に置き換えられそうか
・評価・代替検討にどれだけリードタイムが必要か
といった「移行ロードマップ」を持っておくだけでも、
将来のマイクロプラスチック・残留性化学物質規制への耐性が高まります。
材料メーカー・技術商社と早い段階から連携し、
・バイオベース材料
・低添加剤・低抽出物設計
・リサイクル・リグラインドとの相性
なども含めて、候補をリストアップしておくことが現実的な一歩です。
シール・パッキンを「環境・コスト・リスク」でトータルに見直したい場合は、
『脱炭素・省エネ要求はゴム部品にも影響する?軽量化・長寿命化に効く設計のヒント(前編)』
『脱炭素・省エネ要求はゴム部品にも影響する?軽量化・長寿命化に効く設計のヒント(後編)』
も参考になります。
LCA や省エネ要件と結びつけて、シール仕様をアップデートする視点を解説しています。
6. まとめ:「今はタイヤ、次に聞かれるのは“他のゴム・樹脂部品”」
現時点で、法令として明確に狙い撃ちされているのは
・「意図的に添加されたマイクロプラスチック」
・「タイヤ摩耗粉」
の2つです。
しかし、
・タイヤ摩耗粉が“前例”として社会に認知される
・PFAS 規制や LCA といった別の流れと連動する
ことを考えると、
「マイクロプラスチック規制の次の焦点」が、
他のゴム・樹脂部品、特にシール・パッキンに向く可能性は十分にあります。
だからと言って、すぐに
・特殊ゴムをすべてやめる
・全シール・パッキンを“環境ラベル対応品”に変える
必要はありませんが、
・使用実態の棚卸し
・長寿命化と摩耗抑制の設計
・PFAS フリー材への中長期ロードマップ
といった“筋の良い準備”を進めておくことで、
将来の規制・顧客要求に振り回されにくいシール戦略が組めるようになります。
「自社のシール・パッキンは、マイクロプラスチックやPFASの観点から見て大丈夫か?」
と不安を感じたら、一度棚卸しとリスク整理をしてみる価値があります。その第一歩として、本記事で紹介した関連コンテンツも活用しながら、
自社なりの“環境対応シール戦略”を描いてみてください。
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