ものづくりプレス
2022-04-26
ゴム加工の基礎知識
ゴム加工とは、ゴム素材を切削したり流し込んで固めたりすることで、目的のゴムの形に加工することです。ゴムの加工方法やゴム素材にはさまざまな種類や、種類に応じたメリット・デメリットがあるため、作りたいゴム製品に合った選択しましょう。
当記事ではゴム加工の概要や具体的な加工方法、ゴム加工で使われるゴム素材、ゴムの加工助剤などについて解説します。
ゴム加工とは
ゴム加工とは、さまざまな形状で存在する既存の「ゴム素材の塊」に対して手を加えることで、目的の形状を作り出すことです。既存のゴム素材の塊を削ったり、溶かして固めたり、プレスしたりなど行い、製品や試作品として加工します。
このゴムの塊には、板状のゴムシートやブロック形状からさまざまなタイプが存在します。この形状ごとに応じた加工方法に加え、ゴム素材の種類や量などの要素を考慮し、自社で用いるのに適切な加工方法を選ぶことが大切です。
ゴムを加工して製品にする際、金属と比較したときのさまざまな特徴 を以下でまとめました。
- 金属より加工が原則として容易である
- 金属加工より安価かつ短納期で製造できる
- 収縮復元性によって金属よりも変形に対して強い
- 加工には熟練の腕が必要になるケースがある
- 原則としてオゾンや紫外線、高温、低温に弱い(配合剤やゴム素材の選定で改善可能)
ゴム加工で製造できるもの
「ゴムって柔らかそうで丈夫なイメージがないし、加工したところで使い道が限られるのでは?」と疑問かもしれませんが、ゴム加工によって製造されたものは、今日まで工業現場を中心に幅広い業界で用いられてきました。
ゴム素材にはさまざまな種類が存在しており、それぞれに機械的な摩擦・衝撃や油、薬品、熱などに強いといった特徴を持ちます。使用環境にあった特性を持つゴムを加工して製品にしています。
製造品の例は次のとおりです。
- 配管や機器などの継ぎ目や蓋の部分用のパッキン(丸形から特殊形状まで)
- エンジン用のピストンやシリンダ用のOリング
- 機械製品用のオイルシール
- 薬品や油が中を通るゴムチューブ
- ジャバラ状の製品
- ゴム製の緩衝材
- 医療用ゴム製品
- 家庭用の電子レンジやOA機器
など
またゴム素材の中には200℃の温度に耐えうるものや、非常に強い機械的特性を要するものが存在します。このようにゴム素材は、世の中のあらゆる製品にとって欠かせない材料となっているのです。
ゴムの加工方法
ゴムの加工は用いる機器や手法によって、以下の種類が存在します。
- 切削加工
- 注型・金型成型
- ロクロ・旋盤加工
- ジャバラ加工
- 接着加工
- ライニング加工
- ウォータージェット加工
- 抜き打ち加工
- フライス加工
- 研磨加工
それぞれの特徴をみていきましょう。
切削加工
切削加工とは「切削」の名前のとおり、ゴムを直接切ったり削ったりすることでゴムの加工を行う方法です。具体的な特徴は次のとおりです。
- 金型を使用しないため金型製作の初期費用や時間などのコストがかからない
- 小ロット生産に対応しやすく試作品制作に向いている
- 金型では加工が困難な形でも対応できるケースがある
- 受注から生産までがスムーズに進みやすい
- 大量生産が難しく、1個あたりの単価は高め
切削加工は、フライスと呼ばれる切削工具や旋盤を用いて行うのが一般的です。手法の違いによって、さらに「ロクロ加工」や「旋盤加工」などの種類に分かれます。
特殊な形状やオーダーメイド色が強い加工を求められれば、職人による手作業で加工する業者もいます。
切削加工を行うには、機械の使い方やゴムの状態を理解した熟練のスキルも必要です。ゴム加工を外注する場合は、信頼のおける業者への依頼が大切となるでしょう。
注型・金型成形
注型・金型成形は、どちらも決まった型にゴム素材を流し込んで固めることで、目的の形状に整形する加工方法です。
注型成形とは、「マスター」という元型をもとに作られたシリコーンの型枠に液状の樹脂素材を流し、流し込んだ素材を固めてマスターと同じ形状のゴム製品に成形する方法です。金型成形と比べて加工時間や費用が抑えられるため、短納期・小ロットでの生産や試作品の製造に向いています。
一方金型成形は、金属の型をもとにゴム素材を加工・成形する方法です。ゴムを金型に挟んで加圧して成形を行う「コンプレッション成形」や、スクリューで液体のゴム材料を押し出して金型に注入して固める「射出成形(インジェクション)」、押し出し機でゴム材料を押し出して成形する「押出し成形」などがあります。
金型を用いる製造は、金型製造や変更にかかる初期費用がネックになるものの、自動化や効率化によって大量生産が進めやすくなる点がメリットです。
ロクロ・旋盤加工
ロクロ加工とは、陶芸体験でよく耳にする「ロクロ」という機械的に回転する板の上に加工するゴム素材を載せ、固定したゴム素材を回転させながら刃物や砥石で切削する方法です。
射出機やプレス機などを用いる金型成形と比べると、非常に簡易で加工を行えるのが特徴です。ただし手作業である分、加工を実施する人の技術や感覚、体調面で精度が左右されます。
製品の形によっては、すでにある程度加工を進めたゴム素材を手作業で仕上げるときにも使います。
一方、旋盤加工もロクロ加工と同じく、ゴム素材を回転させながら切削する方法です。旋盤加工では旋盤と呼ばれる工作機械を用います。旋盤にゴム素材をセットした後、高速回転させたゴム素材にバイトと呼ばれる刃を当てて切削を行います。
後述するフライス加工よりも、製品外径・内径の寸法を出しやすいのがメリットです。丸棒状や円状の加工がやりやすい点も特徴といえます。また旋盤加工は、使用する旋盤やバイトの種類、バイトの当て方によってさまざまな形状の加工に対応できます。
ジャバラ加工
ジャバラ加工とは、その名の通りゴム素材をジャバラ(蛇腹)状に加工することです。
ジャバラ状のゴムは伸縮性や柔軟性、耐震性に優れていることから、伸縮が必要な部分のカバーやスイッチカバーなどによく用いられます。
接着加工
接着加工とは、「ゴムとゴム」や「ゴムと金属、樹脂、木材またはコンクリートなど」といったように、ゴム同士やゴムと他の素材をつなぎ合わせる加工のことです。
接着方法には、ゴムの種類に適した接着剤を用いる方法や、ゴム専用の両面テープを使って貼り付ける方法があります。また素材同士溶かして一体化させる「溶着」を行う方法もあります。
この接着加工を行うことで、例えば階段にゴムマットを敷いたり、特殊な配管にゴムを接着させたりすることなどが可能です。
なおゴムの接着加工には、ゴム成形と同時にゴムの加硫を行う「加硫接着」と呼ばれる方法もあります。
ライニング加工
ゴムにおけるライニング加工とは、耐食性や耐摩耗性に優れたゴムを、金属やその他の製品などの表面や内側に接着、または焼き付けによって被覆させる加工のことです。
もともとライニング(lining)は「洋服に裏地をつけること」や「腐食・摩耗を防ぐためにモノの表面や内側にほかの材料を貼り付けること」を意味します。このライニングをゴムで行うのがゴムライニングです。
ゴムライニング加工 の特徴は次のとおりです。
- 耐食性や耐摩耗性が向上する
- 下地になる母材に対しての接着強度が強い
- 形状が複雑な母材でも確実に貼り付けられる
- 欠陥が発生しても簡単に発見できる
- 正確な寸法を出しやすい
など
ゴムライティング加工を実施する際は、母材の表面処理や清掃、接着剤の塗布、あらかじめ加工したゴムシートの接着、加硫検査・実施、仕上げという流れで進みます。
ウォータージェット加工
ウォータージェット加工とは、金属の刃や切削工具ではなく、強力な水圧をゴム素材にかけて切削を行う加工方法です。小径ノズルから勢いよく噴射した超高圧の水の運動エネルギーによって、ゴム素材に熱や電気を通さない加工が可能になります。
熱のないエネルギーが局地的に集まる分、熱や圧力によるゴム素材の変形や歪みを抑えられたり、脆弱材の加工が行えたりできる点がウォータージェット加工のメリットです。また硬度の高いものの加工も苦にしません。ただし加工精度は切削加工や金型加工のほうが優れています。
打ち抜き加工
打ち抜き加工とは、抜型の裁断機やプレスにセットした後、ゴム素材を打ち抜くことで加工を行う方法です。料理で例えると、クッキーの型取りのイメージが近いでしょうか。
ベニヤ板や樹脂板にレーザーで溝加工を施した後、同じ形状に折り曲げた刃を打ち込んで加工を行います。トムソン刃を使ったものを「トムソン型」、ビク刃を使ったものを「ビク型」と呼びます
フライス加工
フライス加工とは、切削工具のひとつであるフライスを高速回転させて、ゴム素材の切削を行う加工方法です。ロクロ・旋盤加工とは逆で、刃側を回転させます。
フライスには平行移動によってゴム平面を平らに削る「正面フライス」や、ゴムに溝を作ることを得意とする「溝フライス」などの種類が存在します。目的の形状に応じたフライスを利用することで、さまざまな形状の加工に対応できる点がメリットです。
研磨加工
研磨加工とは、刃や工具を用いた切削ではなく、研石などを使って表面を削って外形寸法を調整し、仕上げることを目的にした加工方法です。ヤスリがけのイメージが近くなります。
似たような加工方法に研削加工がありますが、研磨加工は切削から研削の作業が終わった後の、最後に行う総仕上げの作業です。使う砥石も、研削加工時より研磨加工時は細かいものを使います。より寸法の精度をあげることができます。
ゴム加工の素材となる主要なゴム
ゴム加工の素材となる主要なゴムは主に次のとおりです。
- NBR ニトリルゴム
- HNBR 水素化ニトリルゴム
- CR クロロプレンゴム
- FKM フッ素ゴム
- Q シリコーンゴム
- EPDM エチレン・プロピレンゴム
それぞれの概要と特性を解説します。
NBR ニトリルゴム
ニトリルゴム(NBR)とはゴムの中でもっとも一般的 なゴム素材で、ブタジエンとアクリルニトリルの共重合体からなるものです。
ブタジエンとアクリルニトリルの配合比率によって、極高ニトリルや中高ニトリル、中ニトリル、低ニトリル などが存在します。配合比率によって耐油性や耐熱性、耐候性などの特性が変化するのが一般的です。
ニトリルゴムは耐油性や耐摩耗性、引き裂き強さに優れていることから、工業用の部品や製品、とくにシール材に用いられます。ただし耐寒性や耐オゾン性は低めです。直射日光が当たるところや温度変化が大きいところでの使用や保存は適さないため、取り扱いには注意が必要です。
HNBR 水素化ニトリルゴム
水素化ニトリルゴム(HNBR)とは、ニトリルゴム(NBR)の耐熱性や耐候性を改良するために開発されたゴムのことです。NBRポリマーの主鎖中の二重結合を水素化することで得られます。
ニトリルゴムと比べると、耐熱性や耐候性、さらには化学安定性や耐圧性が改善されています。また機械的強度も向上している点も水素化ニトリルゴムの特徴です。ニトリルゴムにはない耐冷媒性や耐冷凍機油性を持っています。
ただし耐寒性はニトリルゴムより劣っています。またコスト面でもニトリルゴムのほうが安価で済むため、使用する場合は予算との兼ね合いを検討しておきましょう。
CR クロロプレンゴム
クロロプレンゴム(CR)とは、主鎖中に二重結合を有するジエン系のゴムのことです。さまざまな特性をバランスよく持つこともあり、これまで多くの現場や製品で長く愛用されてきました。アメリカのデュポン社が商品として出したときの商品名である「ネオプレン」で呼ばれることもあります。
クロロプレンゴムの特徴は優れた機械的強度や耐候性、難燃性、ガス透過率を持つことです。自己消火性も持ち合わせています。また、ほかのジエン系よりも耐候性や耐オゾン性、耐熱性が高い傾向があります。
デメリットは低温になると結晶化しやすい点です。ゴムは結晶化すると亀裂や破断の原因となるため、低温の環境でのクロロプレンゴムの使用は避けたほうが無難です。また耐水性と電気絶縁性も少し落ちます。とはいえそのバランスの良い特性から、一般工業用品から電線など幅広く使われています。
FKM フッ素ゴム
フッ素ゴムとは、組成の中にフッ素含有モノマーを含んでいるゴムのことです。FKMはフッ素ゴムの中でもっともポピュラーなタイプになります。
最大の特徴は「ゴム素材の中でもトップレベルの耐熱性や耐油性」を持つことです。同時に耐炎性や耐薬品性、耐オゾン性にも優れています。これらの特徴から、熱がある現場や製品の密封用のパッキンやセンサーの部品として用いられており、活躍する業界も医療から飲食、半導体など問いません。
ただし水蒸気や熱水に弱く、耐寒性もほかの耐性と比べて少し劣ります。また高性能である分、コスト面もほかのゴムと比べて高い傾向があります。
Q シリコーンゴム
シリコーンゴム(Q)とは、シリコン(ケイ素)を原料として作られたシリコーン樹脂から製造されたゴムのことです。ケイ素と酸素を骨格とした「シロキサン結合」であるシリコンにメチルやフェニル、ビニルなどの有機基を結合して製造します。
シリコーンゴムといえば優れた耐熱性と耐寒性です。-50℃~200℃の範囲という広い温度帯で使用できます。耐オゾン性や耐候性にも強く、屋外やそれに近い環境化でも問題なく使える点もメリットといえます。
また「生理不活性」であるため、人体に対しても高い安全性を持ちます。医療や食品業界でも活躍できるゴムです。
ただし機械的強さに関しては少し劣ります。引き裂きや摩擦に弱く、運動用のパッキンや機械的に動作する箇所の封印として利用は向いていません。
EPDM エチレン・プロピレンゴム
エチレン・プロピレンゴム(EPDM・EPT)とは、主にエチレンとプロピレンで構成されたゴムのことです。EPDMは中でも三元共重合体としたものです。
エチレン・プレピレンゴムは、主鎖に二重結合を持たないことから得られる耐熱性や耐候性、耐オゾン性が大きな特徴になります。屋外での使用を苦としないゴムです。また溶剤に対しても強みを持ちます。
しかしエチレン・プロピレンゴムの大きなデメリットとして、耐油性の低さが挙げられます。エンジン油やギアー油、冷凍機油といった多くの油への耐性が弱いです。そのため油用ではなく、耐候性が求められる建築や工業、自動車業界などでよく用いられています。
ゴムの加工精度
実はゴム素材の加工は、ゴム素材が持つ弾力や柔軟性など原因で、精度を安定させるのが困難です。そのため、ゴム加工は非常に難易度が高いとされています。
そこでゴムの加工では「寸法公差」と呼ばれる基準を設け、ある程度の誤差までは許容するとの決まりがあります。
寸法公差は次のとおりです。
寸法区分(mm) | 1級(精級) | 2級(中級) | 3級(粗級) |
---|---|---|---|
0.3~3未満 | ±0.2 | ±0.3 | ±0.4 |
3~6 | ±0.2 | ±0.4 | ±0.5 |
6~10 | ±0.3 | ±0.5 | ±0.6 |
10~18 | ±0.3 | ±0.6 | ±0.8 |
18~30 | ±0.4 | ±0.8 | ±1.0 |
ゴムの加工助剤
ゴムの加工助剤とは、ゴムの加工を行う段階において、ゴムの加工性を改善するために添加する配合剤の一種です。具体的にはゴムの混練や圧延、押出し、射出成形などの各工程での加工性の改善を目的としています。
加工助剤を添加することで、ゴムの品質向上や特性の改良・改善につなげることが可能です。例えば「可塑剤」は加工性や柔軟性、弾性などを向上させます。
なお加工助剤以外のゴムの配合剤には、ゴムの老化を防ぐ「老化防止剤」やゴムの増量・物理的強度向上に寄与する「充填剤」、ほかの配合剤の混入や分散を助ける「軟化剤」がポピュラーです。またこれら配合剤は各メーカーで成分比率や効果の程度が異なっており、その配合表は門外不出されています。
ゴム加工の基礎を身につけてゴムを深く理解しよう!
ゴムの加工方法には切削加工や金型加工などがあり、さらに機械を用いた旋盤加工やフライス加工、さらには水を用いたウォータージェット加工なども存在しています。それぞれで使用する設備や特徴が違うため、ゴム製品と使用するゴム素材に合った加工方法を選択しましょう。
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